日独青少年指導者セミナーに参加して |
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期 間 2013年10月5日〜19日 参加者 日本ユースホステル協会および都道府県ユースホステル協会関係者 7名 レポーター 岡山県ユースホステル協会理事 三好 修一氏 |
-持続可能な発展のために-
今回の日独青少年指導者セミナーに参加させて戴き、ありがとうございました。
10月5日〜19日までの2週間にわたり派遣された7名と共に貴重な体験をすることが出来ました。 「持続可能な発展のための教育」をメインテーマとして旧東ドイツのドレスデンを中心とした、ザクセン州と首都ベルリンを訪れてきました。 ユ−スホステル(以下YH)発祥の地、ドイツのザクセン州26のYHのうち7か所を視察し、3か所のYHに12泊することが出来ました。保育園、幼稚園、小学校、ケムニッツ工科 大学の教育機関も訪ねドイツの教育現場も実際に見ることが出来ました。 そして、日本のYHとの規模、設備の違い、少人数のクラスでの教育、YHを青少年の教育施設としての運営、行政(国、州、市)との強い連携、YH利用者の年齢層、 個人客中心の日本と違い学校や、青少年団体利用中心の客層の相違等、多くのことを知り、学ぶことが出来ました。 先進的なドイツYH協会,ザクセン州協会(以下DYH)の役員の方々との5回にわたるセミナーを通じてDYHと日本YH協会(以下JYH)の会員数、財政規模、 職員数、YH運営、環境保護についての取り組み、考え方の相違等を知り、日本国内では知ることのできない、新しい知識を吸収することが出来ました。 そして、ドイツのYHを視察してきたこと、学んだこと、新しい知識、経験を報告するとともに今後のYH活動にどのように活かすか、どのように取り入れてゆけば よいのか?考えてみました。 さらに、ドイツのYH関係者と接して貴重な体験をすることが出来たセミナー参加者は今後どのように活動することにより、テーマの「持続可能な発展」に結び付くのか、 より研修の成果が発揮できるのか?今後の日独指導者セミナーの在り方、方向性を考えてゆきたいと思います。 1、訪れたドイツのYHについて(報告と感想) (1)ドレスデンYH(ユーゲントゲストハウス) 定員:480人、旧東ドイツの建物を転用し改装した都市型の7階建てのドイツで5番目の大きなYH、旧市街地にも歩いて15分と近い。
バス、シャワー付の部屋が多い、外国人の利用も多いとのこと。
(2)ゲルリッツYH
セミナールームも多くある。全員が入れる大きな食堂がなく、現在3〜4の部屋に分散して食事している。将来、広い食堂を増築したいとのこと。 廊下、トイレ等、人を感知すると自動点灯する省エネの照明が設置されている。 定員168人、古い街並みの中の建物を改装、増築。中庭から教会の塔が見える。2〜3泊をベースの野外活動体験プログラムを提供している。
旧建物の家族ルームが充実していた。
(3)ケムニッツYH夫婦でYHを管理しているが奥さんのほうがマネージャーになっている。 定員131人、旧変電所の100年前の建物を大幅に改装して2012年にオープンした新しいYH。
(4)バウツェンYH古い建物と新しいショッピングセンター等が交じり合った市街地の中心地に近い都市型のYH。 セミナーの利用が多い。全室、バス、シャワー付き。モダンな設計で施設が充実している。 若い女性がマネージャーでスタッフが若い印象を受けた。 定員112人、500年前の城壁の塔(砦)、を改修、増築したYH。塔の最上階(5F)はYHの歩み等
(5)ザイダYHの資料、写真を展示した「YH資料館」になっている。塔から城壁に囲まれた古い街並みの眺めがよい。ここも女性のマネージャーが管理している。 エルツ山脈の麓にある定員135人のYH。
(6)コルディツYH自然に囲まれた中にあり夏は避暑、冬はスキー等に利用されている。野外活動中心のプログラムや、特産の木彫り人形に絵付(色塗り)をする体験学習がある。 120人収容の多目的ホールでスポーツ合宿もできる。 2008年より沖縄国際YHと毎年定期的に交流をしていて、沖縄の青少年がザイダYHを訪れている。大の日本びいきで、多くの日本の風景写真をホールに飾ってあり、 ドイツで唯一の畳の和室があるYH。野外料理のできる施設もある。 定員161名、旧貴族のお城の建物を改造したYH。2007年オープン、隣接したお城の建物の中にザクセン州の「音楽アカデミー」
と第2次大戦の旧捕虜収容所の跡の「歴史博物館」がある。
(7)シュトレーラYH小高い丘の上にあり、城壁に囲まれた周囲の眺めの良いYH。 定員70名と一番日本のYHに近い。旧風車の塔、風車小屋の倉庫、馬小屋等を利用改装した農村にあるYH。
シュトレーラ市より、多くの援助を受けており、小学校のグリーンライオンのプロジェクトにも協力している。地域密着型のYHとして、市の体育館等の施設を ホステラーが多く利用している。 ドイツのYHの中では規模が小さいので訪れる一人ひとりのホステラーを大切にしているとのこと。 2、ドイツのYHおよびDYHから学んだこと、得た知識、 (数字は2012年の統計より)
(1)環境に対する取り組みの先進性、CO2削減に対する取り組み、削減の証明書の発行。節電(自動点灯の廊下等)の徹底。
金曜日は"ベジタリアンデイ"として燃料、材料の節約をしているYHもある。
(2)施設の充実 (ベッド数は1YH平均140人、シャワー、トイレ付、ファミリールーム、幼児室、車椅子利用の障害のある人たちに優しい設備)、
新規オープンは130人以上の定員とのこと。
(3)都市部のYHはセミナー、研修、会議利用と多目的に使える大小の部屋を多く用意している。 (4)YH毎の取り組み 各YHで、その地の特色を活かした、団体利用のためのYHを中心とした2〜4泊程度のプログラムを企画、リーダー、
施設等を提供してサポートしている。
(5)女性のスタッフが活躍している。 訪れた7か所のYHのうち3か所は女性がマネージャーとしてプログラムの企画、展開、ホステラーの接遇、
スタッフの管理と頑張っている。
(6)認定証の発行 YHの特徴づけ、仕分け、ファミリー向きYH、文化、スポーツ、環境、国際YH等に分け一定の基準に達したYHには認定証を発行し、
ガイドブックに特徴マークを記載している。
(7)監査の実施 YHの評価基準に従って各YHを調査、分析、採点して評価付けをしている。時々、抜き打ち(覆面調査)でYHの運営状態を調査して
評価の再確認をしている。
(8)スタッフの育成、教育制度の充実 DYH独自の教育システムのアカデミー(研修施設)により協会職員、マネージャー、マーケティング、調理、施設管理、
等のセミナーが年間3700回も実施されて専門的な教育、研修が実施され人材の育成がなされている。
現在5200人のYH関係の職員(14の協会、524のYHにて)が働いている。YHマネージャーには研修後、テストに合格すると国家資格が与えられる。 これ以外に約1000人のボランティアがYHを支えているとのこと。 (9)ドイツは14の州協会により、それぞれの州の特色を活かした協会の運営をしている。 YHの建設も国、州、州協会の経費で建設され一部の契約YHを除いて州協会が管理運営している。
ザクセン州では州のYHのPRパンフレットの作成、ベッド、ロッカー等の備品、什器等の発注も州協会で一括して行い、統一性と経費節減を図っている。 (10)宿泊料金、1泊2食付3500円~4500円(ジュニア、相部屋)、27歳以上や会員外はプラス約500円 個室で使用するとき、プラス1350円(ドレスデンYHの場合)ジュニア(26歳以下)は利用料金、食事の料金は日本より少し安い感じ。
3〜14歳はジュニアの40%割引あり。 (11)ドイツの会員登録料金(ザクセン州協会にて聞き取り) 学校パス:約3500円、シニアパス:約2900円、ジュニアパス:約1700円、家族パス(26歳までの家族):約2900円。
個人パスも含めて平均すると約2500円で日本とほぼ同じ。 ドイツ全体の会員数225万人で会員継続率は65%程度と高い。(日本は新入会員の継続率35%程度) (12)ドイツのYHの宿泊数および利用客、(総ベッド数:75700、利用率:36%、ドイツ人の利用92%) 年間1020万泊、400万人が2.5泊している計算。
その割合は学校団体利用40%、ファミリー利用19%、研修・会議13%、ワンデルン・余暇17%、個人利用・26歳以下:6%、27歳以上:5% 団体利用が多く個人客は11%と少ない。この傾向は10年間大きく変化していないとのこと。 3、ドイツと日本のYHの違い(歴史と発展、普及の過程、日本の現状))
ドイツのYHは青少年教育施設(ジュニア26歳以下)として多額の補助金を、国、州より貰って建設されている。したがってシニア(27歳以上)の宿泊は10%を
超えてはならないとのこと。
(ドイツ最大のバイエルン州のYHは26歳までの、ジュニアしか泊まれないとのこと。) 100年以上経過した今も青少年の施設としてYH創始者シルマン先生の精神を強く受け継いでいる。 日本はアメリカより1951年にYH運動が導入され少年団体の教育施設でなく青年層の個人、またはグループで利用する安価で健全な旅の宿として普及し、 JYH創立から20年間で会員数63万人、 宿泊数341万泊、YH数も587カ所、ベッド数4万、利用率23.7%まで増加して、当時は世界有数のYH大国に発展しました。 しかし、その後の40年間減少が続き会員数4.2万人、宿泊数37.5万泊、YH数も220、ベッド数8400利用率12.2%まで減少しています。施設の多様化で外国人の利用も ピーク時の1/3となっています。 ドイツの少年の宿泊施設の厳しい規則を、青年層が主として宿泊する日本のYHに適用した結果、 規則の厳しさが嫌われて多くの若者がYHから離れていったのです。その後、徐々に規則を緩和したがYHに本来の目的の若者は帰って来てくれません。逆に、 高齢者のYH利用は増えています。 今ではドイツのYHをモデルとして1968年より建設された「青少年自然の家」「青少年交流の家」の方が規則が厳しく、多くの青少年団体が、 施設内で規律正しい集団生活を行っています。 青少年人口の減少、宿泊施設の多様化、若者の旅離れ、相部屋を嫌う、ペアレントの高齢化、 YHの数の減少、会員証への愛着の薄れ、その他.….会員減の原因はいろいろと言われています。 ドイツのように青少年の教育施設に特化することなく、旧運輸省の観光政策の一環として公営YHが全国75設置され、所管の文部科学省の青少年の教育施設としてより 若者の観光宿泊施設、出会い、交流の場として急速に発展しました。 その後、豊かな時代に育った若者が宿の多様化と共に離れて行った結果、YH会員も大きく減少しました。 最盛期は利用者の中心でした大学生が、今では大多数がYHの存在を知らないと聞きます。何とかして若い人に"YH"の知名度を上げる必要があると思います。 4、セミナーの体験、ドイツのYHより学んだこと、得た知識をいかに活かしてゆくのか? JYH,地方YH協会の活動、事業、運営にどう反映してゆくか?
ドイツのYHの先進性、環境に対する取り組み、施設の充実を少しでも日本のYHに取り入れることが大切だと思います。すぐには財政的にも難しいことが 多いですが、そのためには下記のような活動、事業の出来ることから取り組んでみたらと思います。 YHは安宿でなく、あくまでも青少年健全育成が目的であることを、忘れてはならないと思います。訪れたドイツのYHの宿泊室にはTVはありませんでした。 (1)YHの知名度をUPする。 若い新規会員は海外旅行(主としてヨーロッパ)をするために「地球の歩き方」等の本でYHを知り入会している。
YHの会員証は世界共通で 国際運動の宿であること、他の安い宿とは違うことをアピールすることが大切だと思います。
(2)YHの数を増やす。ネットワークの整備、充実(特に中国、四国地方の減少が激しい)
(3)人材の育成と地方協会役員の若返りを図る。(YHスタッフ、YH活動指導者講習会の再開)
(4)子供のYH宿泊体験を増やす。そのためには最盛期のYHを知る60〜65歳の昔ホステラーが忙しい親に代わって孫を連れ出しYHに泊まる。
この体験が将来YHを利用して一人旅できるようになり会員増、YHの利用増に結び付くのではないかと思います。
(5)会員になることのメリットを増やす。会員料金、会員制度の見直し、年間4泊までのホステラーは会員外宿泊している人が多い。新規会員の継続率が低い。 継続率を50%までUPする。
(6)関連野外活動団体地方協会は会員に対し旅の情報提供、会員継続の呼びかけを図る。一人、一人の会員を大切にする。 (キャンプ、サイクリング、オリエンテーリング、ウォーキング協会等)と連携してYH利用、会員入会の促進。 5、テーマ「持続可能な発展のための教育」にどう結び付けてゆくのか (サブテーマ;環境教育、自然体験活動、異文化理解、コミュニティツーリズム) (1)1977年より始まり、過去の日独セミナー20回の派遣者100名余りの交流と情報の交換の場、 今後の参加者への助言できる場、機会をつくること。 交流事業の継続、発展のために、過去の参加者名簿、連絡網、訪れた地域YHの情報等の 資料を残してほしいと思います。 (2)事業報告書だけに終わらずJYHのHP、メールマガジン等にセミナーの体験を報告、発表し 広くYH関係者にドイツの最新情報を知ってもらうことが必要だと思います。 (3)国立青少年教育振興機構(NIYE)との連携 2009年よりYH関係者だけでなくNIYEの関係者の方もセミナーに派遣されています。 この関係、人脈を大切にしたいと思います。 以前、代々木のオリンピック記念青少年総合センターの宿泊棟の一部がYHとして契約され 多くの外国人ホステラーが利用していました。現在27設置されているドイツのYHに一番近い "国立青少年自然の家""国立青少年交流の家"の一部をYHとして契約して、ファミリー等の自然体験滞在型のYHとして開放し 利用できないものでしょうか?「YHのネットワークの拡大」に ぜひ検討して戴きたいと思います。 6、終わりに ドイツYH協会の皆さん、訪ねた7か所のYHのスタッフの皆さん、長い間、車の運転をして下さった、ザクセン州協会のラルフさん、全日程を同行して戴いた
通訳の容子さん、ベルリンでの通訳
エリナさん、大変お世話になりました。 日本から同行の6名の仲間に感謝いたします。2週間のお付き合いありがとうございました。 JYH、地方協会、YHの現場が一体となり今後の日本のYH運動を再び上昇方向に導けたら良いと考えます。これからも、日本の多くの若者がYHを利用した"旅"に出て貴重な体験を多くして下さることを願ってやみません。 |